top of page
検索
執筆者の写真江川誠一

入試の信頼性と公正性 〜COVID-19に試さる大学〜

更新日:2020年3月23日

大学入試には、出願から受験、合否判定に至るまでの、手続きの信頼性と公正性が求められる。当然ながらマニュアルの作成と遵守が基本となるが、想定外の、あるいは想定内ではあるが個別に現場判断が必要となるような事象が発生した際に、大学およびその教職員の真価が問われる。

2019年12月、中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスのヒトへの感染は、瞬く間に世界へと拡大した。我が国においても感染者は増え続け、大学入試二次試験の直前(2/21)には100名を超え、各地で大規模イベントや集会の中止等が続出する状況となっていた。

検査で陽性となった受験生は、試験会場へと出向くことが制限される。受験機会をこの指定感染症に奪われたことに対して、信頼性と公正性の観点から大学がどのような解を示すかが問われたのである。そこで少し時を戻し、新型コロナウイルスに感染した受験生に対し、入試においてどのような対処をすべきだったかを考えてみたい(注1)。

感染については、非感染受験生と比べて予防面での著しい不備等がない限り、本人の落ち度と断定することはできない。受験生が欠席や遅刻した場合、「本人の責めに帰すかどうか」が、彼らに対する対処の大きな分岐点であり、例えば公共交通機関の大幅遅延が理由の場合は特別措置が取られる。私はこの原則が出発点であり、陽性の受験生に対しては、基本的に何らかの特別措置を実施することが適切であると考える。ちなみにセンター試験では、感染症に限らずやむを得ない事由があれば、医師の診断書等で追試という特別措置が受けられる。

この選択肢を取る場合、新型コロナウイルスに限るのか、それとも季節性インフルエンザ等の病気や事故、両親の危篤等にまで広げるのかという難しい問題が横たわっている。新型コロナウイルスと季節性インフルエンザでは、ワクチンの有無、罹患した場合の制限の強制性の2点が異なるように思う。前者についてはインフルエンザワクチンの接種に強制力がなく、そもそも接種しても相当数の感染者が発生する現状から、これを根拠として対処を分ける正当性が見出しにくい。後者は原則論で言えば「どちらも受験すべきではない」であり、これらに特別措置で差をつけるとすればそれは「インフルエンザの診断が下されていても受験は可能」と大学が言っていることにつながりかねず、インフルエンザ患者の受験強行と重症化および感染拡大が懸念される。差をつけてもいいと単純に思っていたが、書き進めてみたら差をつけにくいという結果になってしまった。

一方で、特別措置を行わないという選択を、頭から否定することもできない。今はウイルスの解明に程遠く、向こう1ヶ月の様相すら読めない。直前の試験要項の変更は、大きな混乱が生じる恐れがある。関係者全員に生じるリスクが大きく、最悪、試験そのものの信頼性や公正性に疑念が生じると判断される場合においては、特別措置を実施しないという選択もやむを得ないと考える。

両論併記になってしまったが、特別措置の内容を具体的・現実的に考えてみると混迷はますます深まる。その内容としては追試の実施、センター試験のみでの合否判定、志願校変更の許可等が考えられる。

まず追試だが、該当者の受験機会は復活するものの、大学側において本試験受験生との公平性を確保しつつ、問題作成、会場確保と体制整備、周知、実施、採点と合否判定を追加で行うことが必要となる。これを前期・後期日程のそれぞれの試験日(前期は2/25、後期は3/12に集中)、合格発表、入学手続の合間に潜り込ませることは至難の技のように思える。

次にセンター試験のみでの合否判定は、大学・受験側の双方に追加の負担が少ないという利点があるものの、本来は当初からデザインして初めて成り立つ手法であり、アドミッションポリシーとの整合性と不公平感を抱く受験生の増加が懸念される。この方式に親和性の高い大学・学部において、緊急避難的に用いられる手法と認識すべきであろう。

志願校変更の許可については、具体的には前期日程を欠席せざるを得なくなったことによって後期日程の志願校を変えても良いということを、複数の大学間で取り決めることなどが考えられる。受験機会が復活したわけではなく当該受験生のメリットが不透明なことと、短期間で複数の大学で合意していくことの難しさが障害となろう。

実際に北陸の国公立大学二次試験では、各大学において対応が分かれる結果となった。十分な議論の末の結論であることを信じたい。各大学には固有の事情もあろう。今後、同様の事態に備え、平時から準備しておくことが望ましいことは言うまでもない。


注1:本コラムは令和2年2月24日時点での情報を基に執筆している。


閲覧数:98回0件のコメント

最新記事

すべて表示

Comments


bottom of page